(第−6号)

 ふぉとこみ通信

写真の見方
先日東京写真美術館に「私を見て」と言うタイトルの写真展を見に行って来ました。
展示内容は国内外の有名写真家によるヌ−ド作品です。
入り口でチケットを渡してドアを開くと圧倒される様な素敵な作品が壁一杯に展示されていました。
photocom5-p1.jpg中に入りビックリしたのが作品を見ている方々全てが若い女の子!
どう見回しても男性は僕一人です。
何か女性専用車両に間違って飛び乗った時の様にチョット焦りましたが、そんな事には全然関係無いかの様に彼女達は作品に集中しています。
半分位見た所に「大竹省二」の母子裸像の写真が有りました。
溢れんばかりの愛情をわが子に注ぐお母さんの美しいヌ−ド作品です。
写真に魅入られると言うか、なかなかその場所から離れられず長い間見ていましたら隣に若い女の子が並んで来ました。
やはり彼女も魅入られたのか、なかなか離れようとはしません。
彼女に「素敵な写真ですネ!」と話かけました。
街中でヌ−ド写真を見ながら女の子に話しかけたら、キッと睨まれて「何よ、このオジサン!」と言う顔をされるのでしょうが、彼女はニッコリ微笑みながら「本当に素敵な写真ですネ。こんな写真が撮れる様になりたいのですが...」
話を聞くと最近デジタル一眼レフを購入し写真を楽しんでいるのですが、有名な作品の良い所を吸収したくてこの写真展を見に来たそうです。
僕は機械の設計をしているため製品を作る上、必ずライバルの会社が存在します。
良く若い連中に「ライバルの欠点なんか探すな!自分より優れた所を発見してそれを追い越す努力をしろ!」と言っています。
どうやら彼女にはそんな事を言う必要は無さそうです。
街中で開催されているアマチュアグル−プの写真展で気になる事が1つ有ります。
それは...展示されている写真の欠点探しばかりしている方が目に付く事です。
全て作者の想いのこもった作品です。もう、そんな見方は止めましょうヨ!

男の宝石
少年の心配そうな顔を見てオジサンは何も言わずにハンドルに手を伸ばした。
少年は狭い店先にチョコンとしゃがみ込んでオジサンの指先に集中する。
オジサンの親指がリムに触れると魔法の様にタイヤから黒いチュ−ブを引っ張り出しphotocom5-p2.jpgてバルブから空気を入れ、長年使っていたと思われるベコベコになった水の入ったバケツにチュ−ブを入れると、まるで少年の自転車の息づかいの様に泡がプクプクと浮かんでくる。
オジサンも少年も何も喋らない。
油で汚れた木箱から軽石を取り出すとチュ−ブの表面をゴジゴシと擦りだすのである。
少年はちょっと心配そうな表情を浮かべるが、オジサンを信じようと思いたいのである。
緑色の小さな缶の蓋を開けて水飴みたい糊を薄くチュ−ブに塗り、補修用のゴムを貼り付けるとオジサンはポケットからタバコを取り出し、まるで遠くを見る様な眼差しでタバコに火をつける。
フ−と吐き出した煙に何とも言い様の無い静寂感が漂う。
オジサンは空気入れに両手をあてがい、ゆっくりと空気を入れ、チュ−ブを二つ折りにしてあのバケツに入れた。
小さな緊張が走り一瞬時間が止まる。
泡は出てこない、イヤッ「出で来るな!」と、心の中で手を合わせていた。
お世辞にも綺麗とは言えないウエスで少年の自転車を優しく拭きながらオジサンは初めて笑顔を見せて一言だけ「ハイ、いいヨ」少年の目には油で汚れたあの木箱がまるで宝石箱の様に見えたのです。

あれから50年...我子も既に自転車から卒業してしまいましたが、ある日街角の自転車屋さんの店先であの油で汚れた木箱を見つけました。
黒い油の跡がまるで少年時代の思い出をにじみ出している様です。
男の宝石箱は今も少年の夢と思い出を一杯つめて輝いていました。

Photo Communication 事務局