(第−7号)
ふぉとこみ通信

過ぎた時、戻る時間

梅雨明けの暑い日に京橋の72Galleryで開催されていた「植田正治写真展」を見にいってきました。
小さなギャラリ−ですが、さすが名作の存在感か物足りなさなど全然感じさせない素敵なひと時を過ごさせて頂きました。
photocom7-p1.jpgお腹がすいたので食事にでも行こうと表に出たら「コ−ヒ−を楽しむ店」と書いた看板が有ったので食事が済んだら飲みに来ようか?と、家内に聞いたら賛成、賛成!との即答。
狭い地下の中華レストランで食事をした後早速例の喫茶店の前に...
狭い入り口から急な階段で昇る2階の喫茶店です。
改めてお店の名前を見ると「バラ−ド」と書いて有りました。
何か記憶の有る名前だナ〜?
そうだ若い頃彼女と良く待ち合わせのため入った秋葉原に合った喫茶店と同じ名前だ。
そう言えばあの店はなくなっちゃったナ〜。
足元に気をつけて2階に上がりドアを開くと正にうなぎの寝床的なお店です。
僕よりちょっと年上位のマスタ−に「昔、秋葉原に同じ名前の喫茶店が合ったのですが..」と、話すと「それ、ここに来る前の店だヨ!」
もう30年以上前の話です。
photocom7-p2.jpgそう言えば、珍しい時計が有りましたよネ...
振り子の代わりに20センチ位の紐が左右の棒にクルクルと巻きつく時計でしたネ。
当時は彼女と待ち合わせている間、ボ−とその動きを見ていた記憶が甦ります。
ああ、それなら「ホラ!あそこだヨ」と指差す所に黒く使い込んだ時計が掛けて有りました。
そこにマスタ−の奥さんが買い物を抱えて入って来ました。
マスタ−が事情を説明したのか、奥さんが時計の下に行き「アラ?昨日は元気に動いていたのにネ」と、言うなり定規で時計をくすぐるかの様に振り子を触る
と、思い出したかの様に紐がクルクルと巻き付き始めました。懐かしくその動きを見ていると、眠い所を起こされたのかチョット不機嫌そうな声で時計が話しかけてきました。
「やっと来たな、もう30年以上も待っていたんだゼ」
「ところで、あの小さな可愛い彼女とはどうなったんだい?」
「あの彼女か〜...随分昔の話しだネ」
「あれから色々有ったけど、今は僕と同じ苗字になってサ」
ホラ、あそこの椅子に座っているヨ。

パイプに絡まれた街(川崎市扇島)

何年も前ですが首都高速から川崎港海底トンネルを通り川崎駅に向かった時、暗闇から明るい出口に出たとたん「何だ、この街は!」とビックリする光景が目に飛び込んで来ました。
道路沿いに走る大小さまざまなパイプライン。
石油プラントや多くの化学工場同士を結んでいる物凄い数の配管、配管...。
まるで街が配管と言う蔦に絡まれている様です。
ビックリする僕をよそ目に当たり前の顔をして歩いている人々も不思議な光景です。
photocom7-p3.jpgまた確かに多くの人はいるのですが何か存在感が無いと言うか?生活の息づかいが聞こえないと言うか?
パイプの触手を持った巨大工場に街が侵食されている様にも見えました。
この時からこの街がズ〜と気になっていましたので、先日扇島ウェッチングとばかりに写真を撮りに行ってきました。
五時のサイレンと共に各工場から家路につく人がゾロゾロと出てきて近くのバス亭に向かphotocom7-p4.jpgっていきます。
扇島に立地している工場規模から言えば何千人と言う人々が働いているのでしょうが、人の姿を見るのは朝夕の通勤時間帯だけです。
30分もするとまた人の姿は見えなくなり、聞こえてくるのは工場の煙突から出る白煙のシュ−、シュ−」と言う音と行きかう自動車の音だけになります。
大変大きな音なのですが、何か静寂感が有るのが不思議な感覚です。
思い出したかの様に女の子が歩いて来ましたが、何か石油プラントの巨大な手のひらの中で行き場も無くさ迷っている様にも見えます。













「ここから先は君達の来る場所じゃないヨ」とでも言っている様な標識が突然現れました。
扇島には沢山のクズ鉄処理場が有ります。
このクズ鉄は何に使われるのか聞きたいのですが重機は置いて有るのに人の姿は見えません。
運河の対岸にJFE(日本鋼管)が有りますので、もしかしたら製鉄に使う素材かもしれません?



(唯一の住民?)
工場への引込み線の脇に黒猫がいました。
この扇島に24時間住んで居るのはもしかしたら君だけかもしれないナ〜?
でも、何処でエサを食べているんだい....
誰も見えない所だけど優しい人はいるなだネ。


長年ここに行きかう人たちにとってはこのパイプラインは一体どの様に見えているのでしょうか?
花も咲かない...
冬になっても葉っぱも落ちない...
それでも目になじんだ街路樹の様なものでしょうか?
次はもう少し時間を掛けて歩いてみたいと思います。
−撮影後記−
今回の扇島の街歩きは彼女(オリンパスOM−2)とのデ−トとなってしまいました。
工場プラントが乱立する街を撮影しようと思った時はデジタルカメラで行こうと思っていましたが、出かけようとした時に「何処にいくの?一緒に連れてって!」と、甘い声で誘ったのが彼女でした。
不思議なもので絞りを決める...
フィルムを巻き上げると言う一連の動作と言いますか、タイミングが街の情景にピッタリ合います。
デジカメは性能が良くて便利な事は確かですが、カメラと楽しく話しながらとなるとフィルムカメラかな?と感じました。
現に黒猫を見つけたのも彼女の方でした。
「見て見て黒猫だよ!」
ファインダ−を覗くと
「君は何処に住んでいるの?友達は居るの?」なんて一生懸命話かけていました。
次は夜の扇島を撮影に来たいと思います。
夜となればISO感度やWBバランスを自由に変えられるデジカメの出番です。
そんな事を考えていると...
心を見抜かれたのか?

彼女が「今度は夜に来ようヨ!」

Photo Communication 事務局